『次に繋がるもの創り』 T-cut New model
2020.12.03
一言で「商品企画」と言っても、様々な想いや切り口があります。
ブランドとして10周年を迎えた2020年のAWコレクションで表現したかったのは、「次に繋がる」もの創り。トニーセイム のこれからにワクワクしていただきたくて、工場の皆様と全身全霊で取り組んだ企画です。
tonysamejapan: 細井 礼
トニーセイムジャパン代表取締役社長。
視力は良いものの、地元の眼鏡店で出会ったメガネに惚れて購入したことがきっかけでこの世界へ。高校卒業後はアジアを中心とした世界を旅する。36歳3児の父。最近はじめた趣味はアクアリウム
tonysame: japan 高木 良輔
1998年に眼鏡専門学校に入学し、眼鏡セレクトショップでのアルバイトを開始。卒業後の2002年眼鏡フレームメーカーに就職し、11年間勤務。2013年にトニーセイムジャパン入社。直営店勤務、営業を経て現在は商品企画を担当。
さてそれでは各シリーズについてお話していきましょう。
よろしくお願いします。
今期のモデルの中でまず最初にご紹介するとすれば、やはりこちらのT-cutシリーズですかね。
10周年ということを強く意識したチャレンジングな企画でした。
そうですよね。
春は「re:product」で過去のもの創りをアップデートしました。
そして秋は「これからのもの創り」ということで、全く新しいスタイルを生み出すことを試みました。
「T-cut」をベースに組んでいます。
これまでシンプルで上質なデザインをテーマにしてきたT-cutシリーズを、かなり大胆にアレンジしました。
最大のポイントは2つのリムから生まれるフローティングデザインです。
フローティングのデザイン自体は目新しいものではありませんが、トニーセイム 独自のアプローチを試みました。
詳しく説明していきましょう。
はい。
企画の初期の時点で、「次に繋がるデザイン」や「大胆なプロポーション」「ハイエンド」などのキーワードを想定する中で、「立体的な造形」やT-cutシリーズ共通のディテールであるダブルブリッジを発展させたデザインとしての「フローティングフロント」をイメージしていました。
そうですね。
ただ、そういった「これまでのトニーセイムにはなかったデザイン」を形にするのと同時に「トニーセイムらしさ」も大切にしたいと考えていました。
「らしさ」は進化はしても、見失ってはいけない大切な部分です。
色々と考えた中で、トニーセイムらしさとは「顔馴染みの良さ」があると考えました。
これまでも意識してきた「ジャパニーズスタンダード」という考え方や、アセテートライトに代表されるすっきりした正面視などによって、これまでも「かけるとお顔に馴染む」デザインというのは意識してきました。
そうですね。ただ、最初に出ているキーワードは、どちらかというと主張の強い方向のデザインをイメージさせるものですね。
はい。そこで、「大胆なプロポーションをもったフローティングデザイン」を「顔馴染みの良いデザイン」に落とし込むことを考えました。
言葉にするのは簡単なんですけどねぇ・・・笑
はい・・・笑
実際に仕上がったフレームを見れば、その2点を両立するためのデザインであることがお分かりいただけるはずです。
アウターリムの正面視は1.1mmまで細くしています。
普通のメタルフレーム並みの薄さです。
これが奥行きは2.8mmでこれだけのカーブを作り出すための方法を生み出すのに、途方も無い時間がかかっています。
こう言ったデザインを創るときに真っ先に思い浮かぶのは「リム材を巻く」という方法です。
リム材:メタルフレームを作るときに使用する材料。様々な形状があり、フレームデザインに合わせて選択する。
ただし、リム材を用いた場合、
正面視×奥行きの設定に制限が生まれると言うことと、
二次加工の方法(今回の場合はカーブをつけるための加工)にも制限が生まれます。
加えて、仮に1.1mm×2.8mmのリムで作れたとしても、強度の問題が起きる可能性が非常に高いです。
ですので一般的なフローティングデザインのメガネは、がっしりしたデザインか、ふにゃふにゃなデザインが多いですよね。
この辺りを検証していた時は正直「この理想のデザインを形にするのは難しいか…?」と頭をよぎりましたよ…笑
そうですね。一番時間もかかりましたし、工場の皆さんとの打ち合わせも沈黙の時間が長くありました。。。
重い空気でしたね笑
ただそんな中から、「プレスで抜く」、
正確には「3mmのチタンの板を抜いて、カーブをつけ、さらに切削で外形を作る」という方法に行き着きました。
言葉にするのは簡単なんですけどね…笑
「チタンの板を抜いて、カーブをつけ、さらに切削で外形を作る」こと自体は珍しいことではありません。
ただ、ここまでの薄さと奥行き、カーブを全て兼ね備え、かつ安定した強度を持ったデザインはあまり見たことがありません。
ほんと、工場の皆さんには頭が上がらないですね・・・
この方法であれば、カーブや正面の薄さも自由に設定することができる上に、プレスをすることでチタン自体の密度が高まり、強度が上がります。
この工法を取ることで全てが解決できました。
鯖江での打ち合わせで、「これならいける!(難しさはさておき…)」となった時は鳥肌が立ちました。
結果的にこの左右のアウターリムは継ぎ目のない「輪っか」になっています。それをダブルブリッジでつないだような形ですね。
美しいデザインになったと思います。
・・・細井さん、フロントをどう作ったという話でかなりボリュームが出てしまいました・・・しかもいつもよりかなり文字数が多いです。
確かに…笑
一度区切って、次回に続きをお話しましょうか・・・
そうしましょう・・・